リタイア モラトリアム
2007-11-04


「リタイア モラトリアム――すぐに退職しない団塊世代は何を変えるのか」という本。村田裕之著。日本経済新聞出版社。07年8月24日一刷 。



「07年問題」という言葉が聞かれた。 団塊世代が一斉に定年を迎え、会社を去ることで、現役世代とリタイア世代との間の急激なギャップが問題になる、との危機意識から叫ばれた。

しかし、実際には、「07年問題」は起きなかった。 背景には、年金問題があった。支給開始の年齢を順次引き上げ、65歳にしようという制度改革だ。これとセットにして、企業やリタイア世代の高齢者に、これまでの仕事を制度として継続させるための高齢者継続雇用法という法律が作られた。



これが団塊世代の一斉リタイアを回避し、「やがて来るリタイアの生活」への助走期間をつくることになった。これを称して、「モラトリアム」つまり、恐慌時の支払猶予令のようなものだ、と筆者はいう。



このような「モラトリアム」が何をもたらすか。時間的な解放から、「自分探し」への欲求などの諸点があげられ、それぞれが新たな消費を生み出し、それに伴うビジネスチャンスも生まれる、として最後は、カレッジリンクという「知縁型」ライフスタイルで、大学と老人ホームを結合する試みを関西で行っている実践例を述べている。



この本で、最近の科学的な知見を知った。

従来、高齢者の心理学的な側面に関しては、「成熟期」といった形で一括りされてきた。

それが最近の神経細胞学では、大脳の神経細胞について、年とともに減少はするのだが、新たな神経細胞が生成されていることが分かったきたのだそうだ。

――「脳は大きく大脳、小脳、脳幹の3つで構成される。その最も表面にある大脳皮質の外側を「灰白質」、内側を「白質」と呼ぶ。灰白質には情報を出す「神経細胞」がぎっしり詰まっていて、そこから何本もの樹状突起が出ている。その中で長いものは軸索と呼ばれ、白質の方へ伸びている。神経細胞どうしはシナプスと呼ばれる構造で互いに連絡しており、信号は樹状突起から軸索へとつたえられていく。一方、白質には神経細胞からでてきた情報を伝達するための「神経線維」が詰まっている。これはいわばブロードバンドの電線ケーブルの束のようなものだ。最近の研究で、この灰白質の体積は20歳頃から一定のペースでほぼ直線的に減少していくことがわかっている。つまり、神経細胞は年とともにへっていくのである。tころが、興味深いことに神経線維の束である白質は、逆に年とともに増加していくのである。しかも、男女の区別なく増加していく。

人間の脳は神経細胞と神経細胞どうしがつながりあったネットワークでつくられている。このため、脳の働きの面では情報を出す神経細胞自体も重要だが、それよりも神経細胞どうしの「つながりあい」つまり神経線維の発達の方がよりじゅうようである。

年をとると灰白質、つまり情報を出す神経細胞は減る。このために色々な情報処理能力は落ちていく。ところが、知識や智慧を形成していると思われる神経線維のネットワークである白質は少しずつ増えていく。だから神経細胞が親でも、そこから出ている電線がなくなるわけではない。シナプスを形成し、複雑なネットワークが形成されていれば、それを構成する一つの細胞がしんでもネットワーク全体としてさほど影響がなく、維持できるとかんがえられている。これはインターネットのようで面白い。インターネットでは、パケット信号を伝達するルーターの一部が故障しても、自動的に別のルーターを経由して信号が伝えられるからだ。


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