推薦選挙の理念と実際
2007-05-22


昭和17年四月下旬執筆(大阪都市協会の依頼により)  昨年 衆議改選を延期 随って市議選も延期となりし為、本年は全国にて九十余市の改選行わる

 ”大大阪”誌 (都市協会発行)第18巻第5号、昭和17年5月号所載

  推薦選挙の理念と実際      本年ならば実現必ず可能          高原  操

  (一)要は反省と熟慮断行  我が国に自治制の布かれて、すでに五十有余年の長きに及んでいるのであるが、帝都の東京を初め、全国の大中小の都市、町村ほとんど悉くが、其の事績において、進歩せずして退歩している。その過去半世紀のあいだ日清役、日露役を経て、我が皇軍の威武は、目覚しき偉功を樹て、一躍世界列強の班に伍することとなり、第1次欧州大戦後には一等国の列に入り……さらに今次の大東亜戦となりては、其の戦果の迅速さと偉大さとにおいて、古今東西の戦史に比類なき大功績を挙げつつあり……しかるに顧みて内に政治上の成果が逆比例に萎靡不振、否、退転逆行の状態に在るは如何にしても解しがたきではないか。……西欧の諺には『戦争に勝ち得るものは何事をも為し得る』というに、戦果比類なき好成績の国民にして、行政上自治制の成績に落第点を付けなければならぬとあっては、現代国民は祖先に対しても子孫に対しても申訳がない……ということになる。  我輩が、市政の革新を行うに当たりて、市会改造のため推薦選挙を行うべしと主張する動機は、ここから発してこれを実際に吾が居住地なる池田市に施して、覗ったとうり、理想選挙を標榜して理想百パーセントの実現を得た。要は熟慮断行である。革新は決して出来ない相談でない。

  (二)今年行えば目的を達する  理想を描いて、狙ったとうり、これを実現することは、なかなかもって容易の業ではない。が今年ならば何処で行っても出来ると信じている。……その理由は――(一)時局が超非常時なること、……大東亜戦の進行中なること、……皇軍が『東亜共栄圏』の理想実現に着々その功を奏しつつあること、(二)外に向かって未曾有の国力発展を為しつつある此の際に、内政が旧態依然のままでは相済まぬ、何とかせんでは不可ないではないか――という気分が多数人の胸中に湧いている。……この二つの事由によりて、本年これを行うならば必ず出来る。現に曩に池田市において理想通り成功し、近くは本年三月、徳島市において同じ理念を掲げて、市会の革新に推薦選挙を行い、大成功を遂げたのである。……但しそのためには準備が必要である。啓蒙運動が行き渡らなければならぬ。良市民の潜在熱意を揺り起こさなければならぬ。

  (三)啓蒙運動と候補選基準  第1次基礎的工作たる啓蒙運動に、十分なる準備を要する。市民の各層、各団体に向かって解り易く自治制度の根本義を説明して遣るの熱心と努力とを続けなければならぬ。――つぎに推薦母体の結成だが、この母体構成に非難のない純潔有徳の人々を以てせねばならぬ。……而してのち被推薦候補の選定に最も深甚の注意を加え的確条件を規約して純良の人物を、立派な現役要人を、――即ち『あの人ならば』と万人の納得する人物を挙げること――この点が最重要点なれども衆議院議員の場合とは異なり、有徳者を主要目標として特別の智識や弁舌やを必要とせぬ。否、むしろ殊に法律の智識または才弁など無い方が却って好いということを以て選べばさほどむずかしい事はないのである。後に具体的に詳述するが日々繁忙な職業を有して、それぞれの職場に勤務せる人々にてよいのである。……標準は過去に道徳上の非難なき人、『あの人なら』私欲のために公益を害せざる保険の付けらるる人……というのが要点である。ゆえに実際にあたってみて、左ほど難事でもないのである。……被推薦候補の承諾を得るに苦心を要すること勿論だが、これはここに詳述の必要もあるまい。


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